その前髪を。。

前髪が立ったまま下りなくなってしまった。
常にジェルで固めておったてたような状態になってしまっている。
実際は固めているとかそんなに良いものでもなく、単なる寝癖君のような状態なのだが、髪の毛を洗おうがもはや戻らない寝癖である。
前頭部の一番前のほうにあった短い毛が少し伸びてきて、少し後ろの毛を押し上げているのが原因なのはわかっている。
これは、いくら剛毛の自分でも30年生きてきて初めてのことである。


この前髪おったち現象は、ロンドンにきてからお世話になっているキプロス人のおっさんのカット術に起因すると思われる。
おっさんは、普段は欧州のいわゆる白人を相手にしているため、私のような剛毛の東アジアの人間はあまりお目にかからないようで、カットに行く度に「すごい太くて量も多くて良い毛だね。」「この毛と同じくらいお金もあったらハッピーだね。」などと返答に困る冗談を言いながら、陽気に切ってくれる。
が、やはりおっさん、剛毛処理には慣れていないので、日本人の理髪師の方に比べて、髪をすき過ぎる傾向がある。
カットに行った直後はかなりボリュームダウンし、相当に気分が良いのだが、いかんせん短くすきすぎているので、少し伸びると髪の毛全体がおったちやすくなる。
今まではどちらかというと、このおったち現象は頭頂部から後頭部で起こっていたのでそれほど気にしていなかったのだが、今回遂に前髪部分で起こってしまったという次第。


実は、おっさん、最近このおったち現象に薄々気づいてきているようで、前回行ったときは、「僕のヘアカットは回を追うごとに良くなっているかな?」と不安そうに訊かれてしまった。
そのときは面倒くさかったので、「もちろん」と適当な答えを返してしまったが、おっさんの向上心に応えるためにはちゃんと事実を教えてあげるべきではなかったか、とちょっと後悔している。
あのときのおっさんの真剣さを思いだすと、このおったった前髪を見たらさぞかし悲しむだろうと思い、髪が伸びすぎたせいでおっさんのところに行くに行けなくなってしまった。
前髪たてたままで逡巡しているロンドンの夏の昼下がりなのであった。モッズである。違うか。