長いおまけ

いわゆるアメリカ帰りの人達の日本における啓発的な言動が最近気になっている。特に気になるのは「日本は国際的に完全に取り残されている」的な発言やアピール。想像するにアメリカでの職業経験や留学というのは自己啓発セミナー的な影響を彼らに及ぼしているのではないか、と思う。留学や仕事で苦労した末に成果を出したこと、それによって見えた景色というのは彼らにとって格別で、それを何とか日本に伝えたい、というメンタリティーなのであろう。おそらくアメリカ社会というのは多様な価値観の間を割とシンプルな原則が貫いているため、その景色が見えたときに強烈な「発見した」という達成感とエクスタシーが生じるに違いない。勿論、達成感とエクスタシーとともに日本に帰国するのは良いのだが、それで、宣教師みたいになって、このシンプルな原則に貫かれた文化を、日本で布教しだして、反発を食らって、逆さづりにされたり生き埋めにされても、「私は棄教しません!」という風に頑張ってしまうのはやっぱりまずい、と思う。こういうことが起こると、客観的に見て生き埋めにしているほうが明らかに悪者な訳で、そうすると、「あんな素晴らしいアメリカ帰りの人達を生き埋めにするなんて、やっぱり日本人って野蛮だわ。」ということになって、周りの日本人達は、結果的に無批判にアメリカ帰りの人達の考え方を受け入れるようになってしまう。実際、現実に日本で起こっているのはこれなんじゃないか、と思う。

最近かなり記憶力が悪化している私が書くのも恐縮なのだが、こういう悲劇を防ぐためには、自分を含め、日本人がもう少し自分達の記憶力を良くしなければいけないと思う。記憶力を良くする、というのは、日本の過去の歴史を良く把握するということなのだが、これって別に戦前の日本はやっぱり悪くなかった、とか、もっと愛国心を持とうとかいうことを勧めている訳ではない。そうではなくて、日本の過去の歴史を当事者(といっても色んな立場が当然あるのだが...)に近い感覚で理解しようということなのである。こういうことを書くと、また、明治以降の日本の話で、当時の日本は植民地拡大戦略をとるしかなかった、とかそういう文脈で理解されてしまいがちなのだが、実際重要なのは、むしろ江戸時代以前の歴史の理解だと思っている。特に江戸時代の鎖国や参勤交代等が日本人のメンタリティーに与えた影響はかなり決定的だと思う。長々と書いてしまったが、要は、自分達のメンタリティーについて島国気質というような安易な説明をして逃げるのでなく、もう少し歴史的な経緯を踏まえた上でよく理解していかないと、いずれ日本人の独自性なんて跡形もなく消え去ってしまうだろうという話なのだ。アメリカ的シンプルな原則に直面したとき、全面肯定か全面否定しか選択肢がないのは悲劇だと思う。でも自分達のことをよく分かっていなかったら、どちらかしか選びようがない。