ロンドンの深度

忘れないうちに書いておこうと思う。東京からロンドンに戻ってくる飛行機の中で見た映画(ドキュメンタリー?)が異様に強烈であった。
タイトルは「Waltz with Bashir」。日本でも「戦場でワルツを」という題名でこの秋に公開予定の模様。
イスラエルのアニメ映画なのだが、1982年のレバノン戦争の際に起こったパレスチナ人虐殺をあつかっていて、今回のアカデミー賞外国語映画賞(結局「おくりびと」が受賞)の大本命であったらしい。
ちなみに、これらの情報はロンドンに戻ってきてきて調べた後知恵で、飛行機の中で見た時はこれらの知識はまるでなかった。


Waltz with Bashirというよくわからないタイトル、全編台詞がヘブライ語のアニメ映画という異様さに興味を引かれて見ることにしたのだが、実際見てみると、朝日とも夕日ともつかないような光に包まれたレバノンのビルとか、海上で輸送船が爆破される映像の美しさがとても印象に残る。一応戦争映画かつドキュメンタリーなのだが、主人公の失われた記憶を探すという筋書きもあって、雰囲気はかなり幻想的である。

秀逸なのは、政治的なにおいを廃して、可能な限り、パーソナルの視点をとっているところで、そのおかげで、当のイスラエル人達も、未だに、この戦争や虐殺の意味を見いだせていないことと、そのせいで生じる苦悩のようなものがよく伝わってくる。
映画の中では、「何故戦うのか?」というような小っ恥ずかしい問いかけはない。否応なく、徴兵で戦争に巻き込まれた人間が、自分をまもるために銃を撃ち続けるのは自明である。でも終わった後に、「あれは何だったのか?」「そもそも現実だったのか?」という苦悩が残って、それは20年経っても解決できない。それで、この映画が出来たらしい。